13.2 キチン・キトサン
13.2.1 海洋微生物からの有用酵素
医療、食品、化粧品、農業、衣料 等、広い分野でのキチンの有用性が注目され、それに従ってキチン分解関連酵素の研究 が多く行われてきている。また、キチンを含む有害生物の制御への応用、さらに自然界 に大量に存在しその分解物が生態系で循環されていることにも関心が持たれている。し かし、主として陸上生物及び生体外に分泌される酵素を対象として研究が行われ、キチ ン分解が生態系のかぎとなる海洋、また生体内で進行する代謝系については極めて少な い。そこで当所 では、古くからキチン分解性を持つことが知られている海洋細菌の1種ビブリオ(Vibrio)に着目するとともに、広く海洋細菌のキチン分解機構について研究を行った。
高いキチン分解活性を持つ菌株 V.cholerae non-O1 1148Aをスクリーニングで選 択、キチナーゼとβ-N-アセチルグルコサミニダーゼの生産条件を設定した。1148Aは増殖が速く、また難分解性の固体キチンをよく分解し、工業的利用が期待される。
1148Aの菌体内に、キチンの構成単糖である N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を脱アセチルする酵素の生産を見いだした。 酵素を単離しその性質を検討した結果、これまでに報告されていない広い基質特異性を持ち、 生体内で GlcNAc の代謝に関与するGlcNAc 6-リン酸デアセチラーゼであることを明らかにするとともに、同酵素遺伝子を単離、解析、その一次構造を解明した。 さらに同酵素に続いて作用するグルコサミン 6-リン酸デアミナーゼを単離、その性質を明らかにした。
キチン分解利用には、多数のタンパク質、そ の制御、また情報伝達のための機構が存在すると考えられている。大腸菌のGlcNAc代謝 について遺伝子レベルで解明されているが、他の細 菌に関して報告されていない。当所では、代謝に必要とされる遺伝子群、nagE、nagA、nagCを解明し、また大腸菌とは異なる制御が存在することを明らかにした。
生命工学工業技術研究所との共同研究により、水深 0〜6000mの海域から分離された1 38菌株を対象に、キチン分解性を検討し、その中で高分解性を示した4416m及び6000mか らの分離菌につ いて検討した結果、低温域で活性を持ちしかも高い至適温度(40〜50℃)と熱安定性を持つデアセチラーゼ、及び高pH域で作用するデアミナーゼの生産を明らかにした。
(藤嶋静、山野尚子、田中龍太郎、村木永之介、夜久富美子)