新しい粉末加圧成形法(BIP法)による複雑形状部品の作製 大阪府立産業技術総合研究所 材料技術部 無機新素材グループ 主任研究員 垣辻 篤 1.はじめに セラミックスや粉末冶金製品の多くは,原料粉末を所望の形状に成形した後に焼結を行う ことによる,いわゆるネットシェイプ成形が代表的な製造方法である.本プロセスにおける 粉末の成形には,スリップキャスト成形,加圧圧縮成形,射出成形など種々の方法が開発さ れ,実用化されている.このうち,加圧成形には金型を用いて一軸方向に加圧する金型成形 法と,ゴムなどの弾性体を圧力媒体として利用して等方的な圧力を付与する冷間静水圧成形 (CIP)がある.共に圧力を付与して成形するために高密度な成形体を得ることが出来るが, 金型成形では,粉末と金型壁面との摩擦により,成形体内部に密度むらが発生しやすく,結 果として製品にゆがみが発生することになる.また,複雑な形状のものを作製しようとする 場合,金型の作製に多大な時間とコストを必要とし,さらに,形状によってはコンピュータ 制御のプレス機(CNCプレス)を使用しなければならないなどの問題点がある.その点, CIP成形では,成形時に粉末には等方的に圧力がかかるために密度むらの非常に少ない成 形体を得ることが可能となる.しかしながら,モールドとして圧力媒体に弾性体を用いてい るために凹凸の激しい部品を成形した際にしばしば割れが発生する.これは,成形圧力を除 荷する際に,弾性体が元の形状に戻るために発生する,いわゆるスプリングバックが原因で あると考えられる.当所では,新しい粉末加圧成形法として開発されたRIP(Rubber Isostatic Pressing)自動粉末成形装置を導入し,種々製品の試作に取り組んできたが,本装 置も圧力媒体として弾性体であるゴム型を使用しているため,しばしばこの問題に直面して きた.今回,このモールドのスプリングバックを回避し,加圧成形においても凹凸を有する 複雑形状部品を成形出来るな新たな方法を開発したので報告する. 2.BIP法 図1は,モールドが成形 体を押し割る様子を模式的 に示したものである.同図 (a)に示すように歯車やド リル歯の様なくぼみ形状を 有する製品を成形する場合, 加圧時には粉末と同時に モールドも圧縮され,粉末 は固化する(同図(b)).こ の後荷重を除荷すると,ゴ ムモールドの場合には,弾 図1 モールドのスプリングバックの模式図 粉末 モールド ゴムの場合 スプリングバック により押し広げら れる! 半固形の場合 凹部モールドの流出 ↓ 割れの回避! 圧縮 除荷 粉末 モールド ゴムの場合 スプリングバック により押し広げら れる! 半固形の場合 凹部モールドの流出 ↓ 割れの回避! 圧縮 除荷 (d) (c) (b) (a) 性的性質のため元の大きさに戻ろうとする.この際(c)に示すように製品凹部内に位置する 収縮されていたゴムも膨張するために,固化した粉末(成形体)を押し割ってしまう.この 体積膨張は加圧時のエネルギーと同等分開放されるため非常に強力である.従って,割れを 回避するためには,(d)に示すように,凹部のモールドが除荷時に流出するような流動性の ある材料を使用すれば,除荷時のモールド材料の膨張分は流出によって緩和されるため,ゴ ムを用いた際のような大きなスプリングバックは発生せず,割れを回避することが可能とな る. 種々検討の結果,成形体の割れを回避す ることが可能なモールド材料としては,い わゆるビンガム流体が最適であることがわ かった.これは,図2に示すように,降伏 点以下の応力では固体的性質を示し,流動 がほとんど起こらないのに対して,その降 伏応力を超えると流体的な性質を示す材料 である.圧力が付加されていない状態では, 固体的性質を示すために,モールドとして 作用する.すなわち,粉末を装填するため のキャビティーを形成出来,そこに粉末を 充填しても保形性を有することを意味して いる.その後,成形圧力が付加され,降伏 点を超えると流動性を有することとなり,圧力媒体として作用する.一般にビンガム流体の 降伏応力は粉末の成形圧力と比較してはるかに小さく,成形プロセス時には十分に液体的な 挙動を示し,しかもCIP法などとは違い,ゴムなどの圧力媒体を介することなく粉末と直 接接しているために静水圧性が高くなることが予想される.このような特性を示す物質には, ペトロラタムやワセリンなどに代表される石油ワックス,グリース,油脂類あるいは粘土な どがあるが,現在,主としてペトロラタムを使用して研究を行っている. 図2 ビンガム流体の応力−歪み速度曲線 降伏点 ずり速度 ずり応力 降伏点 ずり速度 ずり応力 以上のように本プロセスでは,圧力媒体としては,ペトロラタムのようなビンガム流体を 用い,等方的に加圧出来るプロセスであることから,BIP(Bingham solid/fluid Isostatic Pressing)法と呼称することとした. 一方,BIP法では粉末と流体的性質を示す圧力媒体が直接接することとなり,モールド 材料が粉末内に含浸することが危惧される.粉末が成形固化する以前にモールドが含浸する と,圧力媒体として作用しないため成形が不可能となる.この影響を考慮するために(1) 式に示すポアズイユの式を参照した.これは圧力勾配を有する流体が細管内をどれだけ流動 するかを示したものであり,粉末粒子間の空隙を細管径に見立てることによって,含浸量を 見積もることが出来る. 〓 〓 〓 〓 〓 〓 ∂ ∂ ′ 〓 = x pa Q ? π 8 4 (1) (Q:体積流入速度,a:管径,?':粘性,微分項:圧力勾配) 本式により,モールド材の含浸量は,粉末の粒子間隔の4乗に比例し,モールド材の粘性 に反比例することがわかる.すなわち,粉末の粒径が小さくなるほど,その粒子間隔は小さ くなり,含浸量は極端に減少することがわかる.実際に,アルミナ粉末の粒径を変化させて 含浸量を測定したところ,平均粒径が数十?mの粉末を使用すると,含浸量が数mm観察さ れたのに対し,平均粒径1?m以下の粉末を用いると,含浸はほとんど観察されなくなった. すなわち,粉末粒径を細かくすることによって,含浸を抑制することが可能となる.また, 粒径の大きな粉末に適用する場合には,接 触部分のモールドに微粉を混入するなどの 工夫により,含浸の問題は回避できる.し かしながら,たとえ含浸したとしても成形 体さえ作製出来てしまえば,モールドの含 浸深さはわずか数mmであるため,射出 成形の脱バインダと比較するとほんのわず かな時間で除去できることから,製品への 影響はほとんどないものと考えられる. 〓 〓 〓 〓 〓 〓 本プロセスで成形した例を示す.図3は, BIP法によって成形した超硬合金(WC- 11mass%Co)粉末製のドリルならびに歯 車,およびアルミナ粉末による歯車の焼結 体である.従来,このように凹凸形状を有 する製品を上記のような塑性変形能が乏し い粉末を用いて,ゴム型にて作製すること は非常に困難であった.その上,ここに示 すアルミナは成形用バインダを添加するこ となく成形が可能であった.また,この製 品のように中空体を形成するには従来の方 法では中子なしでは成形不可能であった. BIP法においては,このような中空部位 にあたるモールドのスプリングバックを全 く気にする必要なく成形可能である.また, 図4は人差し指を型取りして指の模型を作 製した例を示す.原料粉末にはアルミナを 使用している.指紋等のしわが忠実に再現 できていることがわかる. 図3 BIP法による成形例(1) 〓超硬合金製歯車,〓超硬合金製ドリル, 〓アルミナ製中空歯車 図4 BIP法による成形例(2) 3.成形プロセス BIP法の製造プロセスを,順を追って説明する.まず,モールドの作製であるが,まず, 所望の形状と相似形状を有する母型を用意する必要がある. ペトロラタムなどモールドの原料となる材料は加熱することによって容易に溶融させるこ とが可能である.母型を型枠内に固定し,そこへ溶融したモールド材を流し込み,冷却固化 させる.その後,母型を抜き取ると,母型の形状が転写されたキャビティーが作製出来, モールドの完成となる.形状によっては母型を抜き取ることは不可能なこともあるが,その 場合には,割型を作製して組み上げることで作製が可能となる.さらには,型抜きのような 機械加工的手法,あるいは水溶性の物質で母型を作製し,モールド完成後に母型を水で溶解 するなどの手法も考えられる.いずれの場合においても注意しなければならないのは,モー ルドと離型の良い母型材料を選ぶことである. その後,このキャビティーに粉末を充填し,圧縮を行う.充填に際しては,出来るだけ均 一に行うよう注意することは他の加圧成形法と同様である. BIP法の特徴の一つとして,加圧用装置を新たに開発する必要がないことがあげられる. すなわち,既存の金型用のプレス機やCIP装置を利用して成形が可能である.このため, 既存の加圧成形装置を保有しておれば,新たに設備投資を行う必要がない.これら装置を用 いて,粉末を充填したモールドごと加圧すれば,前節で説明したように,内部の粉末には等 方的圧力が付与されることになる.したがって,金型プレス機を用いての一軸圧縮でも CIPによる静水圧力でも結果は同等となる. 除荷後,成形体にモールドが付着した状態で取り出すことになる.モールドの作製でも述 べたように,ペトロラタムなどのワックス系材料では,加熱すると溶融するため,粉末成形 体と分離することができる.このように本方法では,他の加圧成形法とは違い,モールドは 一度加圧プロセスを経ると形状が崩れてしまい,再び使用することは出来ない.しかし, モールドに使用する材料は加熱溶融が可能であるため,これを回収,再利用することは可能 であり,繰り返し使用できる. 4.まとめ CIP法,RIP法などで用いられているゴムなどの弾性体を圧力媒体として用いる加圧成 形法によって,凹凸形状を有した複雑形状部品を成形する場合にしばしば発生していた成形 体の割れを回避する新たな加圧成形法を開発した.これは,モールド作製時には形状を保持 し,加圧時には流体的性質によって圧力媒体と作用し,除荷時においても流動性を保持して いるために,成形の凹部から流出することによって,成形体の割れを回避するようなビンガ ム流体を圧力媒体として用いるものであり,BIP法と称して,新たな複雑形状品への加圧 成形法として提案した.BIP法は他の粉末成形技術と比較して,型材が安価で再利用可能 である,バインダレスでの成形が可能である,新たな加圧のための設備投資が不要であるな どの利点を有していることを示した.これらの特徴から,本成形法は多品種少量・中量生産 に適した成形方法であると結論される.今後,成形品の精度の向上,モールドの量産化技術 の確立など達成されれば,工業化が図れるものと考えている. 参考文献 津守不二夫:「静水圧プロセスによる複雑形状部品の成形」第1回新粉末成形セミナーテキ スト,(社)粉体粉末冶金協会編(2002)